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暗黒童話ララ(一話)

一話 凍った乳房


 救いがたい不眠が支配した・・・。

 ララは、良家の妻だったが、隠れ家を持っていた。戦いに明け
 暮れた中世の頃、先祖が残した秘密の地下壕・・・それを偶然
 見つけたとき、ララの心は裂けてしまった。

 双頭の小さなミイラを見たのだった。生後間もない乳飲み子が、
 嘆くように乾いていた。
 古い書が添えられた・・・祖父母の時代よりも古かった。
 「神よ、この子を守りたまえ、私と兄の愛の証を守りたまえ」

 近親相姦・・・まさかそんな・・・そしてその血は私の中にも流れ
 ている。誰にも言えない秘密だった・・・。
 家系を調べた。祖父の父の時代であった。
 放蕩ざんまいの一人息子・・・つまりそれが祖父の父だったの
 だが、年頃になって美しい嫁を迎えた。
 運命の悪戯だった・・・この時代、生きるために子を手放す親
 は多く、略奪で引き剥がされる家族もいた・・・時代の歪みが同
 じ血を持つ若い二人を結んでしまった・・・。
 何人かの子が生まれ、父や母となって代を重ね、その中で自
 分はこの世に生を受けた・・・不幸にしてその子だけが悪魔の
 姿で生まれてしまった・・・。

 そんな・・・物語りに書かれてあった情景が・・・思春期だった娘
 の心を支配して・・・性欲を感じだし、いずれにしろ男に抱かれ
 なければいられない自分を激しく嫌悪するようになっていた。

 ララは、ララではなかった。

 タチアナという名で生きていたが、物語のララに心が乗っ取ら
 れてしまったように、救いがたい不眠の夜を過ごしていた。
 戦いを逃れるために民はそこら中に地下壕を掘っていた。物語
 りに書かれたような密室が、手に入れた別宅の真下に残されて
 いたのだった。
 その後、夫と不仲となって、別居のためにその家を与えられ、
 実質的には財産を分与され捨てられたようなものだった。
 大きくはない家だったが、その地下に壕があろうなどとは気づ
 かずに・・・いいや、あるいは隠すため・・・その上に建てられた
 ものだった。
 上にいては眠れない・・・ララは、ララらしいベッドでなければ眠
 れない。物語を読みふけり・・・睡魔がきて明かりを消すと・・・む
 しろ開放的な暗黒世界に堕ちていけた・・・地下壕に窓はなか
 った。

 温かくもやさしくもない柔らかな乳房を揉みしだき・・・指を這わ
 せて性に震え・・・達しながら眠りについた・・・。

 目が覚めた。いつものような朝だった。五階建てのアパートの
 最上階・・・明るく広い部屋だった。イタリアの小さな街の街外
 れに、赤煉瓦の古いアパートは建っていた。
 これがタチアナの日常だった。夫とは別居中。しかし夢と符合
 するのはそのぐらいで、ララの先祖などもちろんとして、別宅も、
 その地下の地下壕なども存在しない。
 悪夢と淫夢と白日夢が、コーヒーに溶けていくミルクのように歪
 み合って、もつれていた・・・。
 タチアナには子供の頃から、意識と無意識、夢と現実が交錯す
 る不思議な領域がつきまとった。それは心のズレと言ってもよ
 かったかも知れないものだった。地層のような心がズレて、別人
 の心とつながる・・・自分でそれを意識していた。
 
 「あらぁ、バティッスタ、お絵かきしたの? それなあに?」
 「うんとね、お池にね、お魚さんがいるんだけどぉ・・・そのお池
 には二匹しかいないんだぁ・・・広くて寂しい池なんだぁ」
 「そうなの、それはそうね、寂しいねぇ」
 「うん!」
 「あそっかぁ・・・そっちの赤いお魚さんは、青いお魚さんの恋人
 なんだぁ?」
 「そうだよ! これからね、ちっちゃくて可愛いお魚さんがたくさ
 んできて、楽しいお池に変わっていくんだぁ・・・」
 親が一緒・・・その中で育った魚たちは近親相姦・・・ララの心が
 一瞬フラッシュするように脳裏によぎった。
 タチアナは常識的な仕事を持っていた。独身時代は正式な保
 母だったが、結婚して離職・・・別居に至って、いまはパートで
 子供たちに囲まれた。子供は可愛い、大好きだった。

 そして午後早くにアパートに戻り、それからはタイプライターに
 向かっていた。童話だった。出版社に投稿して認められ、少し
 ずつ仕事も増えていた。このペースで伸びていけば、童話作
 家でやっていける・・・そうなれば正式に離婚して、念願だったも
 う一つの童話が書けると考えた・・・。

 暗黒童話・・・そのための書き出しはできていて、今夜には主
 人公がやってくる・・・。
 
 ひょんなことで見つけた子・・・男の子・・・何かの空虚を抱えて
 いて、女に尽くす男になりたいと言うのである。
 くわしく話したわけではなかった。バーカウンターに偶然隣り合
 わせた男の子・・・そしてその子の夢想的とも言える被虐性を知
 ったとき、ララの心がタチアナの神経に折り重なった。
 男の子の名はドリノ。二十歳になったばかりの小柄で可愛い男
 の子。身寄りはないと言っている。孤児院育ちの子供などたくさ
 んいた時代・・・それもタチアナにとって都合がよかった。

 「夜陰に紛れていらっしゃいね、アパートの非常口が裏にある」

 でも・・・そんなにうまく運ぶものかしら? 
 来なければ、それも夢だと考えればいいだけのこと。タチアナ
 は食事も風呂も済ませてしまって、後はもう寝るだけのネグリジ
 ェ姿でタイプライターに向かっていた。

 その夜、ドアがノックされることはなかった。救いがたい不眠症
 にシーツを掻きむしる女の夢を見た・・・。
 やはり夢か・・・そう思ってドリノのことなど忘れてしまった翌日の
 夜・・・九時を過ぎて遠慮がちなノックの音を聞いたのだった。
 ネグリジェにガウンを羽織ってドアを開けた・・・。
 「あらドリノ・・・ほんとに来たのね、夕べ来なかったから諦めてい
 たのに・・・どうしたの?」
 「すみませんでした、そばまで来たら知り合いに会ってしまって、
 まずいと思って引き返したんです」
 「あらそう・・・じゃあ、ほんとに私とのことは誰にも?」
 「もちろんです、消えたいと思ってますから・・・」
 タチアナは眉を上げて部屋の中へと視線を流した。
 「お入りなさい・・・」
 
 それが・・・暗黒童話の書き出しのようなものだった・・・。
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