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夜想曲(十一話) 女の組成

「可愛いんでしょ?」
「ふッ…亜依もね…」
「ンふ…」

 ンふ…と鼻にかかった甘い声を漏らしたきり、亜依はほころば
せた横顔をフロントウインドウに向けていた。曲がりくねった山
道ではよそ見は怖い。少し行くと舗装が途切れて砂利道になり、
さらに走ると薄い下草に覆われた忘れられた道になる。そろそろ
夕闇が迫ってきている。山の夜は景色を明暗に塗り分けるように
やってくる。斜陽が西側の山の肩に消えたとき、山影がいきなり
夜を連れてくるのだ。
 初秋とはいえ陽のあるところはまだまだ明るい。しかし、忘れ
られた家のある一画には山影が忍び寄り、それでなくても薄暗い
納屋の中は静まり返って暗いはず。

 あれから四時間以上も放置した。裸のまま鞭痕だらけの体を後
ろ手に縛られて、錆びついたオートバイにくくられ、土と埃にま
みれた納屋の地べたに横たわっているだろう。
 奴隷男に厳しい仕置きをし、女二人は母屋に戻って時間を過ご
した。女からトゲを抜くような田舎の景色。カビ臭い古い家だが
都会にはない安堵が満ちる。女の下草を奪った全裸の妹を裸のま
ま引き立てて、けれどもそれから責めのようなことはしなかった。
母屋には忘れ去られた人情が満ちているようで、麻衣は心が停止
した。

 心が停まる。穏やかなのではなく、将史を責め立てて魔女へと
向かった心だったが、麻衣の心は砕けていた。良心が壊れている。
 それは幼虫がサナギになって動かなくなるように麻衣は女心を
一度停め、殻にこもって心の組成を組み替えていたのだった。
 きっとそうだと亜依は思う。女は時として心を停めて生き方を
組み替える。姉は強い。心を停めてしまう勇気の持てる人。思い
描いた女王の姿だと亜依は感じた。
 私にはできない。心を停めて自我の組成を組み替えるとは、つ
まり逃げ道をなくすこと。妻だった。姉だった。やさしい女だっ
た。それらのすべてを破壊して後戻りのできない新しい自我に組
み替える。勇気のいる、とても怖いことだと亜依は思う。

 廃屋には戦後すぐの昭和が満ちて、しかし現代がミックスして
いた。プロパンガス、電気があって、なのに水道は井戸だったし、
トイレはいまどきボットン便所。厨には使われていない竈の名残
りの上に板が渡され、まったく不釣り合いな電子レンジが置かれ
てあった。冬になると若者たちが雪に遊ぶ。そのときのために置
いてある現代の合理主義だ。
 それで二人は買い物に出て、その帰り道、西の山の稜線に太陽
が沈んでいく。こんなところで主婦するつもりなんてない。電子
レンジで調理できるものでいい。明日の朝の分まで一緒に買った。

「おなか空かしてるでしょうね」
 家と納屋の間の前庭にクルマを停めて亜依が行った。
「寂しいし怖いし、おしっこだってしてるだろうし…」
「いいのよ」
「え?」
「奴隷の身分を思い知らせるためだわ。ふふふ、アイツは昔から
そうだった。はっきりしなくて私任せ。四つの歳の差なんでしょ
うけれど甘えてた。Mっぽいところがあってね、それでリードし
てきたつもりでいたけど裏切られた。これからは支配する。あの
子は私のもの…」
「…すごい言葉」
「私には私を幸せにする責任がある。私が幸せならアイツも幸せ。
そういうふうに夫婦する」
 亜依は、静かだが毅然とした女王の声を聞いていた。助手席に
いるのは姉ではなかった。同じ血を持ちながら自分とは違う別世
界の人。背中を見ていたくなる同性は少ない。亜依は尊敬の眼差
しでその女を見ていた。

「女王様」
 慕情に震えるような声を聞き、麻衣は運転席へ目を流した。
「それでいいのね? 奴隷にするわよ? 嫌ならいますぐ姉さん
と呼びなさい。一度だけチャンスをあげる」
 亜依は、ううん…と言うように微笑みながら首を振り、助手席
にいる女王の膝に甘えながら言った。
「…お慕いします女王様」
 このとき麻衣は、生涯きっと陰毛さえない白く綺麗な妹の体に
ピアスが輝くシーンを想像した。
「帰ったらアレ頼もうね」
「アレって?」
「亀頭につける貞操具」
 膝の上で身をずらして女王を見上げる亜依の眸はキラキラと濡
れたように輝いていた。
「するの?」
「してやるわ。オナニーさえできなくなって女王の私に泣きすが
るまで虐めてやる」
「可愛いでしょうね、そうなると…」
 麻衣は、それには応えず亜依の頭を撫でてやり、胸にすっぽり
と抱くのだった。

「ノクターンよ」
「え?」
「お尻の下にあの子を敷いて、舐めさせながらピアノに向かう。
ふとそんなことを妄想したわ。そのときアイツは亀頭をステンレ
スが覆う可哀想なペニスをギンギンに勃起させ、だけどもちろん
イカせてもらえず、ただただ女王の性器に奉仕しながら溜まりに
溜まった精液をトロトロ漏らすの。それでしか精液を出せない男
にしてやりたい」
「そうすると、でも…」
「なあに?」
「赤ちゃんはいらない? 他に素敵な人探す?」
「まさか。スポイトで吸い上げて入れればいい。命がけの奴隷姿
に感動できたら、たまには許してやってもいいでしょうし」
「ンふふ、可哀想…でもきっと幸せでしょうね、すがりついてい
られるもの」
 麻衣は、亜依の頬を手荒く撫でると空気を変えるように言った。
「さ、降りましょ! どうしてるか楽しみだわ、はははっ!」

 納屋は闇に落ちていた。笠のない裸電球が下がっていて、電球
の肩に埃がかぶり、スイッチを入れると頼りなく赤く灯る。六十
ワットの明かりだったが広い納屋には心もとない。
 オートバイのそばに将史は傷だらけの裸身を横たえていて、尻
の下に小便に濡れた土がある。このとき麻衣も亜依もミニスカ姿
でストッキングなど穿いてはいない。麻衣は少し長さがあったが、
若い亜依のジーンズミニは見えそうなほど短かった。
 明かりをつけ、尿を漏らしていることに姉妹でほくそ笑みなが
ら歩み寄る。将史は弱く丸い目で二人の女王を見上げていた。
 怯えている。ここまま見捨てられたら死んでしまう。走り去る
クルマの音を聞いたとき泣き叫んだ奴隷だったが、そんな声は届
かなかった。

「あーあ、もう…おしっこしちゃって。借りてる家で何てことす
るのよ、このマゾ奴隷め」
 言いながら麻衣は、またあの工事用ロープを手にすると、真ん
中で二つ折りにして握り締めた。
 将史はイヤイヤをするように首を振り、涙を溜めて言う。
「もう嫌ぁぁ、お許しください女王様…亜依様もどうかお許しく
ださい。鞭は嫌ぁぁ」
「身に沁みた? 奴隷を誓う?」
「はい女王様、一心に償いますから、鞭はもう嫌…助けてくださ
い」
 涙をこぼして哀願する将史を見下ろして、麻衣は一度手にした
ロープの鞭を手放した。
「おなか空いたでしょ」と亜依が訊くと、奴隷はうんと首を折っ
てうなずいた。
 麻衣は地べたに這う汚れた男のそばにしゃがみ、髪の毛をわし
づかみにして顔を上げさせた。

「お水ぶっかけて洗ってやるわ、家畜みたいにね。おまえはもう
人じゃないの。犬以下の存在ですからそのつもりで励みなさい。
マゾ男は女王の排泄物まで食べるって言うわ。ちょっとでも逆ら
ったら便器にするわよ、わかった!」
「はい女王様」
 麻衣の目配せで亜依が縛りを解いて奴隷を這わせる。白かった
尻が鞭腫れにズタズタになっていて、血が乾いて赤黒くへばりつ
いている。腰にも背にも無数の血腫れがはしっていた。
「お尻の穴を上に向けて這いなさい!」
「はいぃ!」
「ふふふ、情けない男よね」と亜依にまで笑われて、将史は泣き
ながら這って行く。
 睾丸が緩んで垂れていた。小さく萎えたペニスのところどころ
が内出血に青くなり、亀頭全体に血が回って青黒くなっている。

 姉の横顔を亜依は見ていた。可愛くてならないといった面持ち
の狭間にゾッとするほど残酷な冷えが混ざる。
 その視線がいずれきっと私にも向くだろうと考えて、亜依は姉
の性器を思い浮かべた。女王に悦びを捧げるために私はいる。そ
して上に立つ奴隷として将史を虐め抜いてやる…亜依もまた心の
組成が組み変わっていく魔女の自分を感じていた。
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